2017年 07月 25日
特許 平成20年(行ケ)10433号 内燃機関の排ガス浄化方法(審査手続き、ちょっと古い) |
◆審査段階で示していなかった文献を追加して(周知技術)拒絶査定を打つことが、手続的瑕疵(§159②で準用する§50違反)に当たると判断された事件。
【拒絶理由、進歩性、周知技術、刊行物、引例/引用例、新たに追加、最後の拒絶理由、一発拒絶査定、特許法159条、特許法50条、手続保障の観点、普遍的な原理/極めて常識的基礎的な事項、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟】
※図は参考
(特許法159条2項の準用する50条違反について)
「…審決は,拒絶理由通知においてなんら摘示されなかった公知技術(周知例1及び2)を用い,単にそれが周知技術であるという理由だけで,拒絶理由を構成していなくとも,特許法29条1,2項にいういわゆる引用発明の一つになり得るものと解しているかのようである。
すなわち,審決は,相違点1について,「排ガスがリーンのときに,NOx浄化触媒としてNOxを触媒表面へ吸着するものは周知(例えば,周知例1及び周知例2参照。以下「周知技術1」という。)であることから,相違点1に係る本願発明の発明特定事項は周知である。」と説示し,また,相違点2についても,…という説示をしているが,誤りである。
被告主張のように周知技術1及び2が著名な発明として周知であるとしても,周知技術であるというだけで,拒絶理由に摘示されていなくとも,同法29条1,2項の引用発明として用いることができるといえないことは,同法29条1,2項及び50条の解釈上明らかである。確かに,拒絶理由に摘示されていない周知技術であっても,例外的に同法29条2項の容易想到性の認定判断の中で許容されることがあるが,それは,拒絶理由を構成する引用発明の認定上の微修整や,容易性の判断の過程で補助的に用いる場合,ないし関係する技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合に限られるのであって,周知技術でありさえすれば,拒絶理由に摘示されていなくても当然に引用できるわけではない。
被告の主張する周知技術は,著名であり,多くの関係者に知れ渡っていることが想像されるが,本件の容易想到性の認定判断の手続で重要な役割を果たすものであることにかんがみれば,単なる引用発明の認定上の微修整,容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合ないし当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合にあたるということはできないから,本件において,容易想到性を肯定する判断要素になり得るということはできない。
この点に関する被告の主張は失当であり,原告らの主張が正当である。
エ 以上により,審決には,上述のいずれについても,特許法159条2項で準用する同法50条に反する違法がある。」
本田技研工業
(平成21年9月16日、知財高裁1部塚原判事)
◆関連:知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10538号
「審決が原告らに対し上記のような意見を述べる機会を付与しなかったとしても,その双方の場合について実質上審理が行われ,原告らが必要な意見を述べているなどの特段の事情があれば,審決のとった措置は実質上違法性がないということもできないではないが…」(本件判決文より)
◆関連:知的財産高等裁判所平成18年(行ケ )10102号
・普遍的な原理や当業者にとって極めて常識的・基礎的な事項のように周知性の高いものか。
「…本件では,本願補正発明と引用発明1との相違点に係る構成が本願補正発明の重要な部分であり,審査官が,当該相違点に係る構成が刊行物2に記載されていると誤って認定して,特許出願を拒絶する旨の通知及び査定を行い,しかも原告が審査手続及び審判手続において刊行物2に基づく認定を争っていたにもかかわらず,審決は,相違点に係る構成を刊行物2に代えて,審査手続では実質的にも示されていない周知技術に基づいて認定し,さらに,その周知技術が普遍的な原理や当業者にとって極めて常識的・基礎的な事項のように周知性の高いものであるとも認められない。このような場合には,拒絶査定不服審判において拒絶査定の理由と異なる理由を発見した場合に当たるということができ,拒絶理由通知制度が要請する手続的適正の保障の観点からも,新たな拒絶理由通知を発し,出願人たる原告に意見を述べる機会を与えることが必要であったというべきである。そして,審決は,相違点の判断の基礎として上記周知技術を用いているのであるから,この手続の瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
◆Memo:
(1)周知技術の取扱い
・原則:周知技術でありさえすれば拒絶理由に摘示されていなくても当然に引用できるわけではない
・例外:①拒絶理由を構成する引用発明の認定上の微修整
②容易性の判断の過程で補助的に用いる場合
③関係する技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合
(2017.7.25. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-07-25 22:05
| 特許裁判例
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