2017年 08月 31日
特許 平成28年(行ケ)10162号 ロート眼科用組成物事件(進歩性) |
◆コンタクトレンズ装着液と装用中の点眼液の両方の用途に用いることができる組成物の発明について、進歩性が問題となった事件。進歩性無し。
【拒絶査定不服審判、審決取消訴訟、進歩性、特許法29条2項、動機付け、顕著な効果】
(容易想到性)
「⑶ 本件周知技術の適用
ア 技術分野の共通性
引用発明は,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液に関する発明である。一方,本件周知技術も,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液に関するものである。
したがって,引用発明と本件周知技術の技術分野は共通する。
イ 作用機能の共通性
引用発明は,コンタクトレンズの濡れを持続させるものである(【0025】)。
一方,本件周知技術も,涙液層の安定化システムに関する発明(周知例1【0001】),涙液交換の低下の問題の改善に関する発明(周知例2[0047]),コンタクトレンズの湿潤に関する発明(乙1【0064】)において適用可能な技術事項である。
したがって,引用発明と本件周知技術が前提とする発明の作用機能は共通する。
ウ コンタクトレンズ装着液とコンタクトレンズ装用中の点眼液の関係 「医薬品製造指針 別冊 一般用医薬品製造(輸入)承認基準 2000年版」の「配合ルール表」(甲25,100頁)には,コンタクトレンズ装着液と,コンタクトレンズ装着中の点眼液に相当する人工涙液とは,主薬成分か佐薬成分かで違いはあるものの,配合可能成分及び配合不可成分が一致することが記載されている。
そうすると,当業者は,眼科用組成物の成分について,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことを,技術常識として有していたものである。
エ このように,引用発明と本件周知技術の技術分野は共通し,引用発明と本件周知技術が前提とする発明の作用機能も共通している上,眼科用組成物について,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことが知られている。
そして,眼科用組成物において,同一の組成をコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることにより利便性を向上させることは,引用発明も当然に有する自明の課題であるから,当業者は,本願発明と同様に利便性を向上させるために,引用発明に本件周知技術を組み合わせることを試みるというべきである。
よって,引用発明に本件周知技術を組み合わせる動機付けがあるということができる。 」
(顕著な効果)
「ウ 顕著な効果の有無
(ア) 前記アのとおり,本願発明は,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに収斂感,清涼感及び乾燥感という使用感において優れるという効果を有するものである(試験1~3)。
これに対し,前記イのとおり,引用発明は,コンタクトレンズ表面や角膜表面の濡れを持続させ潤いを保つことができ,使用感に優れ,ドライアイなどの粘膜が乾燥状態を呈する疾患や症状の予防や改善に効果を有するものである。そして,濡れの改善は涙液の安定性に関連があること(乙3),涙液安定性に優れていれば,ドライスポットの総面積の割合が小さくなること(乙4),「清涼感の好み」はテルペノイドの量に依存すること(甲11)が,それぞれ認められる。そうすると,引用発明の眼科用組成物が,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに清涼感及び乾燥感などの使用感において優れた効果を奏するであろうことは当業者が予測できたものということができる。
(イ) なお,前記アのとおり,本願明細書には,本願発明について,フリッカー値改善率が増大し(試験4),コントラスト感度が改善される(試験5)という効果を有する旨記載されている。しかし,試験4は,A成分及びB成分を含有する眼科用組成物(処方1)をコンタクトレンズ装着液として用いた後に,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いるか,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いるかによる相違を,試験5は,処方1を用いた場合と眼科用組成物を用いない場合との相違を,比較したものである。したがって,試験4及び試験5の結果は,A成分とB成分を含有する眼科用組成物を同一の組成で両方の用途に用いることによって奏せられる本願発明の効果,すなわち,コンタクトレンズ装着液としてのみ用いた場合と比較して奏せられる効果,及びコンタクトレンズ装用中の点眼液としてのみ用いた場合と比較して奏せられる効果の双方を示すものとはいえない。
(ウ) したがって,本願発明の効果,すなわち,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに収斂感,清涼感及び乾燥感という使用感において優れた効果は,引用例の記載から,当業者が予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。 」
(知財高裁4部高部判事、平成29年8月29日)
(2017.8.31. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-08-31 19:09
| 特許裁判例
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