2017年 10月 05日
特許 平成28年(行ケ)10183号 二次電池用負極事件(進歩性) |
◆二次電池の負極の発明に関し、進歩性が問題となった件。進歩性肯定。
【進歩性、特許法29条2項、一致点・相違点の認定誤り、無効審判、審決取消訴訟】
(容易想到性)
「⑴ 相違点B’の容易想到性について
ア 本件各発明は,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にする負極及びこの負極を用いた二次電池を提供することを目的とし,構成として,負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能なSn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成ることにより,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるようにし,これにより,金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化しても,導電性マトリックス内に囲われているので,金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができ,そして,負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能になる,というものである。
これに対し,本件引用発明1は,従来技術である,金属を加熱して気相で黒鉛と接触反応させる方法や電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物には,黒鉛中に層間化合物と金属とが十分に微細分散されておらず,リチウム二次電池の負極材料として使用した場合に,充放電を繰り返すうちに上記金属が剥離して負極活物質として作用しなくなるという不具合があったことから,粉砕法によって,黒鉛粒子,金属微粒子及び層間化合物とが微細に分散した黒鉛複合物を形成し,それにより,層間に多量のリチウムイオンをインターカレート可能な黒鉛粒子を使用可能としたり,微細化により導電性を高めようとしたりするものである。
このように,本件引用発明1においては,粉砕法によって黒鉛複合物を形成することが中核を成す技術的思想ということができる。また,引用例1には,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるようにすることにより,電気伝導性を確保し,金属を微粒子化しても電解液が分解しないように抑制することができ,負極を備えた電池の容量を高めるという,本件各発明の技術思想は開示されていない。
したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとしてインターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えた上で,さらに,黒鉛層間化合物の製造方法について,本件引用発明1において中核を成す粉砕法に換えて,微細分散工程のない塩化物還元法や気体法その他の方法を採用することを容易に想到できたということはできない。
イ また, 前記2⑵のとおり,Si及びAlは,単体金属原子として黒鉛の層間にインターカレートすることはできないことから,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないものと認められ,証拠(甲6)によれば,Gaについても,Si及びAlと同様に,この元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないものと認められる。そして,Sn及びPbについても,本件特許の出願当時,これらを単体金属原子として黒鉛の層間にインターカレートすることができるなど,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,黒鉛層間化合物を製造することができるとの知見が存在したとは認められない。
したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとしてインターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なSn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えて,これらの金属の微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,これらの金属をゲストとする黒鉛層間化合物を製造することを容易に想到できたということもできない。 」
ソニー
(知財高裁4部高部判事、2017円10月3日)
(2017.10.5. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-10-05 13:31
| 特許裁判例
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