2017年 10月 05日
意匠 平成29年(行ケ)10048号 建築扉用把手事件(類似性) |
◆扉の取っ手の意匠に関し公知意匠との類似性が争われた事件(無効理由)。類似しない。
【意匠の類否判断、要部認定、3条1項3号、基本的構成態様・具体的構成態様、無効理由、審決取消訴訟】
(類否判断 規範)
「 ア 意匠の類否の判断基準
登録意匠と対比すべき相手方の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされている(意匠法24条2項)。この場合には,意匠を全体として観察するとともに,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者,需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して,美感の共通性の有無に基づき判断するのが相当である。 」
(当てはめ)
「 イ 本件意匠の要部
本件意匠に係る物品は,建物の扉に使用される把手であり,把手は,使用者が把持して扉を開閉するという機能を有するほか,それ全体が建物の扉の美感にも大きく影響を及ぼすものである。現に,取引時に用いられる建物扉用の把手のカタログにおいては,建物の扉に接合される把手の底面部を除き,建物の扉に取り付けられた把手全体の写真が製品画像として掲載されている(甲2,乙1ないし6)。
乙1ないし6記載の各製品が原告の製品であり,当該各製品に係る各意匠が公知意匠であることについては当事者間に争いがない(第2回口頭弁論期日調書参照)。そして,参考意匠1及び2並びに上記各意匠によれば,横長棒状で底面が平坦面状であって側面中間部が凹んでいる建築扉用の把手は,原告はもとより,取引者,需要者にとって周知なものであったと認めるのが相当である(乙1ないし6)。
上記認定事実によれば,取引時に用いられる建物用扉の把手に係る意匠については,取引の実情を踏まえると,建物の扉に取り付けられた底面部を除き,把手全体の外観が最も重視されるものといえる。また,把手を利用する者は,扉を開ける際に側面中間部の凹みを掴むことになるから,側面中間部の凹み周辺の形態も取引者,需要者の注意を惹く部分であるといえる。そして,本件意匠のうち,横長棒状で底面が平坦面状であって側面中間部が凹んいるという基本的構成態様は,取引者,需要者にとって周知であったことが認められる。これらの事情の下においては,取引者,需要者の最も注意を惹きやすい部分は,横長棒状の全体形状及び側面中間部の凹み周辺の形態であるというべきである。
したがって,本件意匠の要部は,正面の外形状が左右対称の略扁平台形状であることに加えて,側面中央部の凹みの左右縁が略凹弧状に表されている形態であると認めるのが相当である。
ウ 本件意匠と甲1意匠の類否
横長棒状の全体形状については,正面から見て,本件意匠が左右対称の略扁平台形状であるのに対し,甲1意匠は左右非対称の略扁平行四辺形状であり,とりわけ,その左端部上部が略逆コ字状に突出している。そのため,取引者,需要者にとって,本件意匠及び甲1意匠は,全体として美感に大きな差異があることが認められる。
また,側面中間部の凹み周辺の形態については,本件意匠では,凹みの左右縁は略凹弧状に表されているのに対し,甲1意匠では,凹みの上部が鋭く屈曲して,下部が緩やかな略S字状に表されており,甲1意匠の凹み周辺の厚みが本件意匠に比べて薄くなっている。そのため,把手の使用感を大きく左右する部分についても,美感に一定の差異があることが認められる。
上記認定事実によれば,本件意匠と甲1意匠とは,要部である正面の外形上の全体形状の美感に大きな差異があるとともに,使用感を左右する凹み周辺の形態の美感にまで一定の差異があることからすると,基本的構成態様が類似していることを考慮しても,両意匠を全体として観察した際に異なる美感を起こさせるものといえる。
したがって,両意匠が類似するものと認めることはできない。 」
ユニオン、神栄ホームクリエイト
(知財高裁1部清水判事、平成29年9月27日)
(2017.10.5. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-10-05 18:55
| 意匠
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