2017年 10月 05日
特許 平成28年(行ケ)10263号 配線ボックス事件(進歩性) |
◆配線ボックスの構造に関する発明について、進歩性の有無が争点となった事件。進歩性あり(容易想到でない)。
【進歩性、機械構造系、動機付け、特許法29条2項、無効審判、審決取消訴訟、分割出願、分割要件、公然実施、写真】
(進歩性)
「 相違点3に係る容易想到性の判断
ア 引用例1の記載に基づく検討
引用例1には,引用発明1Aにおける位置とは異なる位置に「接続孔」や「ノック開口」を形成することの記載や示唆がなく,「接続孔」や「ノック開口」,あるいは「保護管」の挿入方向を変更する動機付けに関する記載や示唆もない。
したがって,引用例1の記載に基づいて,引用発明1Aにおいて,「接続孔」や「ノック開口」を異なる位置に形成し,「保護管」の挿入方向を変更することについての動機付けを見出すことはできないから,これに基づいて当業者が本件発明に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。
イ 引用例2の適用について
原告は,引用例2において,切欠口部22をどの方向に開口させるかは適宜選択し得る事項であり,これを適用して,引用発明1Aにおいて,「ノック開口(挿入開口)」を「固定孔」が形成された「側壁」に相対向する「側壁」に「ボックス本体の側方に開口」して形成することは当業者が容易になし得たことであり,そうであれば,「接続孔」を「ボックス本体の上側壁及び下側壁」に「3箇所の突出部」が形成された「ボックス本体の左側壁」に相対向する「右側壁」の「ノック開口」と連通して形成することも,設計事項の域を出ないものであって,当業者が容易になし得たことであり,これらがなされれば,「ノック開口」に挿入された「保護管」を「ラッパねじ」により「固定孔」が「構造物」に押し付けられた方向に沿って移動させる構成とすることも,当然になされる構成にすぎないと主張する。
確かに,前記のとおり,引用例2【0021】には,「保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。したがって,底壁11に設けておいてもよく,そのようにすることによってボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される。」との記載がある。
しかし,引用例2【0013】の「上記保護管保持用口部2はその周方向の所定箇所が切欠かれており,その切欠口部22が一様幅で底壁11側に延び出して側壁12の端縁で開放されている。また,底壁11には上記切欠口部22につながる開口部23が開設されている。」との記載によれば,切欠口部22は,保護管保持用口部2が,その周方向の所定箇所が切り欠かれ,側壁の端縁に向けて一様幅に延び出して開放された部位であると認められるから,切欠口部22は保護管保持用口部2と同一の壁に設けられるものと解される。
そして,【0021】には,「保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。」とした上で,「底壁11に設け」る事例を挙げ,そのことにより,「ボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される」との効果が得られると記載されていることからすると,電線のボックス本体1に対する導入方向が変更可能であり,保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所を他の側壁や底壁11等,ボックス本体の他の「外壁」としてもよいということを記載しているものと解される。他方,【0021】が,保護管保持用口部を設ける箇所を側壁12のままにして,切欠口部22だけ設ける箇所を変えて,底壁11側から上方の側壁12側に開口するようにし,ボックス本体1の内部空間に導入する電線の方向そのものを変更することについての記載はない。
また,引用例2全体を見ても,「保護管保持用口部2」や「切欠口部22」が側壁12に設けられている場合に,「保護管保持用口部2」の位置は変更ず,「開口部23」を設ける箇所を底壁11側から側壁12側に変更するとともに,「切欠口部22」を設ける箇所を,「保護管保持用口部2」と底壁11の端縁との間から,「保護管保持用口部2」と側壁12の端縁との間に変更し,保護管保持用口部2へ挿入される保護管の移動する方向を変更することについての記載や示唆はない。
よって,引用発明1Aにおいて,引用例2の記載に基づいて,「ノック開口」を「固定孔」が形成された「側壁」に相対向する「側壁」に「ボックス本体の側方に開口」して形成すること,「接続孔」を「ボックス本体の上側壁及び下側壁」に「3箇所の突出部」が形成された「ボックス本体の左側壁」に相対向する「右側壁」の「ノック開口」と連通して形成すること,これらにより,「ノック開口」に挿入された「保護管」を「ラッパねじ」により「固定孔」が「構造物」に押し付けられた方向に沿って移動させる構成とすることを,当業者が想到することが容易であったとはいえない。
ウ 引用例3の適用について
引用例1に記載された配ボックスSM36Aにおいて,配ボックス内にケーブルを挿入するためには,配ボックスの「接続孔」に「保護管」を接続してケーブルを挿入する方法と,甲2図1に記載されているように,「保護管」を用いずにケーブルを配ボックスの「接続孔」に直接挿入する方法のいずれかを採用することができる。
一方,引用発明3は,配線用ボックスに上下方向に貫通する切欠部を形成することによって,切欠部の切欠開口から側壁又は底壁を横切るように,保護管を用いずにケーブルを簡単に挿入できるようにしたものである。仮に,引用発明3の配線用ボックスに保護管を接続すると,引用発明3の目的である,極めて簡単にケーブルを挿入することができなくなるから,引用発明3では,配線用ボックス内にケーブルを導くために保護管を用いないことが前提となっていると解される。そして,引用例3には,保護管については何ら記載されておらず,保護管を挿入するための「ノック開口」を設けることについては記載も示唆もされていない。
このため,引用発明1Aにおいて,引用例3の記載に基づいて,「ノック開口」を「固定孔」が形成された「側壁」に相対向する「側壁」に「ボックス本体の側方に開口」して形成すること,「接続孔」を「ボックス本体の上側壁及び下側壁」に「3箇所の突出部」が形成された「ボックス本体の左側壁」に相対向する「右側壁」の「ノック開口」と連通して形成すること,これらにより,「ノック開口」に挿入された「保護管」を「ラッパねじ」により「固定孔」が「構造物」に押し付けられた方向に沿って移動させる構成とすることを,当業者が想到することが容易であったとはいえない。
また,引用発明3は,配線用ボックスに上下方向に貫通する切欠部を形成することによって,切欠部の切欠開口から側壁又は底壁を横切るように簡単に挿入できるようにしたものであり,引用発明3の切欠部は上下方向に貫通する構成とすることが前提となる。引用発明1Aに引用例3の記載事項を適用すると,引用発明1Aの挿入開口は上下方向に貫通する構成になるから,本件発明のような「上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」る構成にはならない。
したがって,当業者が,引用例3の記載に基づいて,引用発明1Aを本件発明のように構成することを想到することが容易であったとはいえない。 」
日動電工、未来工業
(知財高裁4部高部判事、平成29年9月26日)
(2017.10.5. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-10-05 19:26
| 特許裁判例
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