2017年 10月 12日
特許 平成29年(行ケ)100050号 航空機用電池システム事件(進歩性) |
◆電池の衝撃保護のための構造の進歩性が問題となった事件。容易想到、進歩性なし。
【進歩性、29条2項、技術常識、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟】
(容易想到性)
「 イ 容易想到性について
(ア) 引用発明の「試料保護装置」は,激しい振動,衝撃から飛行体又は走行体に搭載した試料を有効に保護するものであるところ,引用文献1の「航空機,ロケット,スペースシャトル,人工衛星などの無人宇宙飛翔体,宇宙ステーションのような高速の飛行体ではその発射時,帰還時に強大な衝撃,振動を生じ,これら強大な衝撃や振動を受ける環境の下では例えば生物試料では正常な生存が阻害されることがある。これは生物試料に限るものではない。装置,機器類にあっては破損,故障を生ずるおそれがある」(前記2(1)ウ)及び「勿論,試料容器内には生物試料を収納する場合に限らず,各種実験器具を収納することもできる」(同オ)との記載によると,引用発明における「試料」は,飛行体や走行体に搭載される「生物試料」のほか,破損,故障を生ずるおそれがある「装置」,「機器類」,「各種実験器具」等も想定されるのであるから,飛行体や走行体に搭載されるものであり,衝撃や振動から保護すべきものをいうと理解することができる。
そして,前記アのとおり,本願出願日当時,リチウム電池は,電気自動車や飛行機の電源としても使用され,飛行体や走行体に搭載されるものである一方,外部からの振動,衝撃によって内部短絡や損傷が生じ得るものであり,これを防止するために衝撃や振動から保護すべき必要があることは,技術常識であったことが認められる。
そうすると,そのような技術常識を有していた当業者には,引用発明において,航空機(飛行体)や走行体に搭載されるものであり,衝撃や振動から保護すべきものである「試料」として,飛行体や走行体に搭載されるものであり,衝撃や振動から保護すべき必要があることが知られていたリチウム電池を適用する動機付けがあると認められる。
(イ) 引用発明の試料としてリチウム電池を適用する場合,リチウム電池をスポンジなどで介装して試料容器に装てんし,それをさらに内枠に収納する態様となるが,引用文献1には,「生物試料を搭載する場合のように酸素,外気の供給が必要なときには試料容器の外板と内枠の内箱に通気孔を開口すればよい」(前記2(1)オ)と記載されており,試料に対して外気の供給が必要なときには,通気孔を設けることが明記されている。
引用発明の試料としてリチウム電池を適用する場合には,電源であるリチウム池と外部との間に配線を行う必要があることが明らかであるが,上記記載によると,試料と外部との間を,スポンジ,試料容器,内枠及び外枠を介して連通させる必要があるときは,必要に応じて試料と外部との間を連通させる穴を設けることが示唆されているといえるから,リチウム電池と外部との間を連通させる穴を設けて配線を行うことは容易に想到し得るものということができ,引用発明の試料としてリチウム電池を適用することを阻害するものとはいえない。
その他引用発明の試料としてリチウム電池を適用することを阻害すると認められる事情は,見当たらない。
(ウ) そうすると,引用発明における保護対象物を「リチウム電池」とし,保護装置を「航空機等リチウム電池システム」として,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到するものということができる。 」
ドクター中松創研
(知財高裁2部森判事、平成29年9月21日)
(2017.10.12. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-10-12 19:04
| 特許裁判例
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