2017年 10月 25日
特許 平成29年(行ケ)10043号 3Dテレビ事件(進歩性) |
◆立体画像テレビの発明の進歩性が問題となった事件。進歩性なし。
【特許法29条2項、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟】
(容易想到性)
「 (3) 相違点の容易想到性について
前記(1)によると,刊行物2には,刊行物2事項が記載されているところ,複数のスピーカ素子は壁面と一体化され,その壁面が湾曲したスクリーンの曲率にならって設けられていることから,複数のスピーカ素子は,湾曲したスクリーンの曲率にならった曲線上に設置されたものであると認められる。そして,このことに,刊行物2における「スモールの研究では直接放射形穴あきキャビネット方式のスピーカは2πステラジアン放射角の環境(正しく半空間)に放射すると仮定した。実際の環境でそのような条件を適切に擬装するには,交差するいかなる境界(たとえばステージ床(4))からも十分間隔をとって,スピーカ前表面を音響境界壁面(10)の如き音響境界と等高にすることが必要である。」(5頁左下欄18行~右下欄5行)との記載等を総合すると,複数のスピーカ素子の各前面は,その設置位置に応じて,スクリーンの対応箇所に正対するように(すなわち,異なる方向に向けて)設置されたものと理解できる。なお,刊行物2には,「スクリーン後方にほぼ直線上に配置されたスピーカ素子」(4頁左下欄3行~4行)との記載があるが,刊行物2には,映画劇場用スピーカ・スクリーン装置が記載されているから,スクリーンは大きなスクリーンが想定されており,スクリーンの曲率が緩やかであることから,「ほぼ直線上」と記載されたものと考えられ,スピーカ素子が異なる方向に向けて配置されているとの前記認定を左右するものとはいえない。
また,前記(1)によると,刊行物2事項のうち,剛性の壁面と吸音材は,スピーカシステムをスクリーン後方に配置したことにより生じる音声上の影響を克服するために設置が必要となるものであり,湾曲したスクリーンの曲率にならった曲線上にスクリーンの対応箇所に正対するように設置された上記複数のスピーカ素子をスクリーン後方に配置せず,上記音声上の影響を克服する必要がない場合には,剛性の壁面と吸音材を設ける必要がないことは明らかである。
ここで,引用発明は,「映画館のスクリーンのような凹面を作成することにより視聴者に立体感や臨場感を向上させた映像を映し出すフラットディスプレイテレビ」であるから,その映画館のスクリーンのような凹面を有するフラットディスプレイテレビのスピーカシステムとして,映画劇場用スピーカ・スクリーン装置である刊行物2事項のうち,湾曲したスクリーンの曲率にならった曲線上に,スクリーンの対応箇所に正対するように(すなわち,異なる方向に向けて)複数のスピーカ素子を配置する構成を適用し,設置の必要がない剛性の壁面と吸音材を設けることなく組み合わせることにより,相違点に係る「湾曲した位置に方向の異なる」スピーカを設けるという本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものということができる。
そして,「視聴音に立体感を与える」という効果は,前記(2)の技術常識を踏まえると,引用発明に,刊行物2事項のうち,湾曲したスクリーンの曲率にならった曲線上に,スクリーンの対応箇所に正対するように複数のスピーカ素子を配置する構成を適用し,「湾曲した位置に方向の異なる」スピーカを設けるという構成とすることにより,当然に得られるものであると認められる。
したがって,本願発明は,当業者が刊行物1及び刊行物2に基づいて容易に発明をすることができたものである。 」
ドクター中松創研
(知財高裁2部森判事、平成29年9月26日)
(2017.10.25. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-10-25 13:45
| 特許裁判例
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