2017年 10月 30日
著作 平成29年(ネ)10061号 店舗外観デザイン事件(共同著作) |
◆店舗の外観デザインに関し、共同著作者といえるかや著作物性の有無が争点となった事件。地裁・知財高裁いずれも共同著作者と認められないと判断。
【著作物性、不動産、建築物、店舗外観デザイン、原審平成27年(ワ)第23694号】
(建築著作物 -規範-)
「 (1) 控訴人は,原判決が,本件建物外観(外装スクリーン部分に限られない。以下同じ。)の設計に関し,控訴人代表者の創作的関与並びに共同創作の意思及び事実を認めず,また,本件建物外観を控訴人外観設計の二次的著作物とも認めなかったのは誤りであるとして,要旨,次のとおり主張する。
ア 控訴人設計資料(甲7,7の2)及び控訴人模型(甲8)から成る控訴人外観設計(外装スクリーン部分に限られない。以下同じ。)は,控訴人設計資料により平面上で具体的に表現され,かつ,控訴人模型により立体物として具体的に表現されており,二次元での平面表現としても,当該平面及び模型から観念される立体表現としても,単なるアイデアではなく,具体的な表現である。
イ そして,控訴人外観設計は,具体的な立体形状の組亀甲柄を建築物の外観に適用したことその他多くの点(本質的特徴部分)において,表現上の個性が発揮されているから,創作性を有するものであり,表現としてありふれているとはいえない。
ウ したがって,控訴人外観設計は,それ自体,「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)であるとともに,形状,色彩,線及び明暗で思想又は感情を表現したものであるから,「美術の著作物」(同項4号)又は単なる「美術」(同法2条1項1号)の範囲に属する「著作物」にも該当する。
エ 本件建物外観は,控訴人外観設計に表現された建物の本質的特徴を感得することができるものであって,控訴人外観設計に基づいて制作されたものであるところ,控訴人と被控訴人竹中工務店は,控訴人の設計を被控訴人竹中工務店が引き継ぐ形において,共同で本件建物の外観を設計したといえるので,本件建物外観は共同著作物である。万が一,共同著作物ではないとしても,被控訴人竹中工務店は,控訴人外観設計の本質的特徴を複製又は翻案する形で本件建物外観を設計したから,本件建物外観は控訴人外観設計を原著作物とする二次的著作物に当たる。
(2) しかしながら,控訴人の主張は採用できない。理由は次のとおりである。
ア まず,控訴人(控訴人代表者)は,控訴人設計資料を作成するに当たり,外装スクリーン部分以外は全て被控訴人竹中工務店作成に係る資料を流用しており,手を加えていない事実を自認している。したがって,控訴人外観設計のうち外装スクリーンを除くその余の部分については,そもそも控訴人代表者の創作的関与を認める余地がない。
イ 次に,外装スクリーン部分について,控訴人設計資料及び控訴人模型に基づく控訴人代表者の提案内容が「建築の著作物」の創作に関与したと認め得るだけの具体性ある表現といえないことは,原判決が指摘するとおりであって,控訴理由を踏まえてもその認定判断は覆らない。 控訴人は,控訴人代表者の上記提案が「実際建築される建物に用いられる組亀甲柄より大きいイメージ」として作成されていた点に関し,たとえそうであったとしても,「具体的な建物の外観が視覚的に,一般人にとって看取可能な形で図面上表現されていれば,それは具体的な表現である(から,上記提案がアイデアにすぎないことの根拠にはならない)」などとも主張するが,格子の大きさ一つ取っても,その大きさ次第で,いくらでも集合体としての外観デザインが変わり得ることは後記のとおりであるから,控訴人が想定していた現実の外観は,控訴人設計資料及び控訴人模型をもってしては,いまだ「視覚的に,一般人にとって看取可能な形で図面上表現されていた」といえず,その主張はやはり採用できないといわざるを得ない。
ウ また,仮に,控訴人設計資料及び控訴人模型に現れた外装スクリーン部分の表現そのもの(図案)に関して,「建築の著作物」に限らず,何らかの著作物性(創作性)を認め得るとしても,(外装スクリーンに関する)控訴人代表者の提案と現実に完成した本件建物の外観とでは,2層3方向の連続的な立体格子構造(組亀甲柄)が採用されている点と,せいぜい色(白色)が共通するのみであり,少なくとも立体格子の柄や向き,ピッチ,幅,隙間,方向が相違することは原判決が認定するとおりであるところ,実際に本件建物の外観を撮影した写真(甲5の1・2)と控訴人設計資料及び控訴人模型とを見比べてみても(あるいは,乙2の比較図面を参照しても),例えば,個々の格子を意識させるものであるかどうか(本件建物は全体として細かい編み込み模様になっており,遠目に見ると個々の格子をそれほど意識させない態様であるのに対し,控訴人代表者の提案は,個々の格子が大きく,格子を構成する直線も際立っており,遠目に見てもその存在を意識させるとともに,六角形のデザインがより強調される態様となっている。),編み込み模様の編み目の向き(本件建物は横方向を意識させるのに対し,控訴人代表者の提案は縦方向を意識させる。),外装スクリーンの裏側にある建物自体の骨格を意識させるかどうか(本件建物の外装スクリーンは編み目が細かく,裏側にある建物自体の骨格を意識させないのに対し,控訴人代表者の提案のそれは編み目が粗く,裏側にある建物自体の骨格が透けて見えてその存在を意識させる。)などの点において大きく異なっており,全体としての表現や見る者に与える印象が全く異なることは明らかといえる。
この点,控訴人は,控訴理由書等において,立体格子のピッチ,幅,隙間や,向き,方向などの相違は,いずれも本件建物の外観(見た目)に特段の違いをもたらすとはいえず,表現の本質的特徴を違えるほどの違いとはいえない旨主張するが,同じ組亀甲柄を採用したデザインでも,上記の諸要素等の違い(格子自体のデザインはもちろん,その大きさや配置,組み合わせ方等の違い)により,様々な表現があり得ることは,本件で提出されている関係各証拠(甲30~34,乙12,13など。乙号証は枝番号を含む。)からも明らかといえるし,実際に本件建物外観と控訴人代表者の提案とで表現が大きく異なることは前記のとおりであるから,採用できない。
エ そうすると,結局のところ,外装スクリーン部分に関し本件建物外観と控訴人代表者の提案とで共通するのは,ほぼ2層3方向の連続的な立体格子構造(組亀甲柄)を採用した点に尽きるのであって,それ自体はアイデアにすぎない(前記のとおり,建物の外観デザインに組亀甲柄を採用するとしても,その具体的表現は様々なものがあり得るのであるから,組亀甲柄を採用するということ自体は,抽象的なアイデアにすぎない。)というべきであるから,控訴人代表者が本件建物外観について創作的に関与したとは認められないし,控訴人代表者の提案が本件建物の原著作物に当たるとも認められない。
(3) 以上によれば,原判決が,本件建物外観の設計に関し,控訴人代表者の創作的関与並びに共同創作の意思及び事実を認めず,かつ,本件建物外観を控
訴人外観設計の二次的著作物とも認めなかったことは相当であり,その認定判断に誤りはない。」
竹中工務店
(知財高裁3部鶴岡判事、平成29年10月13日)
(2017.10.30. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-10-30 12:50
| 著作権法
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