2017年 11月 11日
特許 平成28年(行ケ)10092号 スキンケア用化粧料事件(進歩性) |
◆化粧品の発明の進歩性が争点となった事件。進歩性肯定。
【特許法29条2項、無効審判、審決取消訴訟、アスタリフト、DHC】
(進歩性)
「 (3) 相違点に関する判断について
前記1のとおり,本件発明は,カロテノイド含有油性成分を含み,エマルジョン粒子を有するO/W型エマルジョンである水分散物と,アスコルビン酸又はその誘導体を含む水性組成物とを混合し,更にpHをpH5~7.5とすることにより,カロテノイド含有油性成分の分散安定性とカロテノイドの色味安定性とを共に良好に保つことができ,その結果,保存安定性に優れた分散組成物及びこれを用いたスキンケア用化粧料を提供するものである。これに対し,前記(2)イ のとおり,甲5文献には,「アスタキサンチン-LSC1」の荷姿について,1kg又は5kgの,内装ブリキ缶及び外装ダンボール包装であって,窒素充填されたものであることや,「アスタキサンチン-LSC1」を冷蔵保存することが記載されていることからすると,引用発明5は,単独で化粧品として用いられるものではなく,化粧品の原料として用いられる乳化液組成物であって,スキンケア用化粧料そのものではないと認められる。
そうすると,スキンケア用化粧料において,pHを弱酸性~弱アルカリ性の範囲の値とすること(甲3の1~6)が技術常識であるとしても,甲5文献に開示されているのは化粧品の原料としての「乳化液組成物」であって,引用発明5は,スキンケア用化粧料そのものではないから,上記技術常識を引用発明5に直ちに当てはめることはできないといわざるを得ない(化粧品の原料としての「乳化液組成物」において,そのpHを弱酸性~弱アルカリ性の値とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。)。したがって,引用発明5において,相違点2に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがあるとはいい難い。
また,甲5文献には「スキンケア用化粧料」の保存安定性等に関する事項は開示されておらず,引用発明5において,「リン酸アスコルビルマグネシウム」を添加して調製し,乳化剤をポリグリセリン脂肪酸エステルに限定して「スキンケア用化粧料」とした上で,そのような「スキンケア化粧料」のpHを「弱酸性~弱アルカリ性」の範囲内である「5.0~7.5」の値とするという相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けとなるような記載や示唆があるとは認められないから,
当業者であっても,本件発明1の構成とするには格別の努力を要するものというべ
きである。そうすると,化粧品の原料としての「乳化液組成物」である引用発明5において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することについて,当業者が容易になし得たとまでは認めることができない。
以上によれば,引用発明5において,リン酸アスコルビルマグネシウムを添加し(相違点3),pH5.0~7.5程度に調整し(相違点2),乳化剤をポリグリセリン脂肪酸エステルに限定する(相違点4)ことで,スキンケア用化粧料とすること(相違点5)は,それらの構成を採用することに動機付けがなく,したがって,当業者が容易になし得たこととはいえない,との審決の相違点の判断に誤りはないということができる。 」
ディーエイチシー、富士フィルム
(知財高裁1部清水判事、平成29年10月25日)
(2017.11.11. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-11-11 18:55
| 特許裁判例
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