2017年 12月 28日
特許 平成29年(行ケ)10058号 ランフラットタイヤ事件(進歩性) |
◆ タイヤの構成の発明に関し、数値範囲に係る部分の進歩性が争点となった事件。設計的事項、進歩性無し、審決取消。
【無効審判、審決取消訴訟、進歩性、動機付け、設計事項】
(容易想到性)
「イ 引用発明における凹凸のパターン12の具体的な構造として,甲2技術を適用した場合,その凹凸部の構造は,「5≦p/h≦20,かつ,1≦(p-w)/w≦99の関係を満足する」ことになり,これは,相違点2に係る本件発明1の構成,すなわち「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p-w)/w≦39.0の関係を満足する」という構成を包含する。
そして,本件明細書(【0078】【0079】)には,「乱流発生用凹凸部では,1.0≦p/h≦50.0の範囲が良く,好ましくは2.0≦p/h≦24.0の範囲,更に好ましくは10.0≦p/h≦20.0の範囲がよい」「1.0≦(p-w)/w≦100.0,好ましくは4.0≦(p-w)/w≦39.0の関係を満足することが熱伝達率を高めている」との記載があり,「1.0≦p/h≦50.0」「1.0≦(p-w)/w≦100.0」というパラメータを満たす場合においても放熱効果が高まる旨説明されている。「10.0≦p/h≦20.0」「4.0≦(p-w)/w≦39.0」という数値範囲に特定する根拠は,「好ましくは」と,単に好適化である旨説明するにとどまる。
また,本件明細書の【表1】【表2】には,p/h及び(p-w)/wと耐久性の関係についての実験結果が記載されているところ,本件発明1の数値範囲のうちp/hのみを満たさない実施例3(p/h=8)の耐久性は,本件発明1の数値範囲を全て満たす実施例8,11,12,18,19の耐久性よりも高く,本件発明1の数値範囲のうち(p-w)/wのみを満たさない実施例13,15,16((p-w)/w=44,99,59)の耐久性は,本件発明1の数値範囲を全て満たす実施例8,11,12,18,19の耐久性よりも高いという結果が出ている。
加えて,本件明細書の【図29】には,p/hと熱伝達率の関係についてのグラフが記載され,【図30】には,(p-w)/wと熱伝達率の関係についてのグラフが記載されているところ,これらのグラフは,p/h又は(p-w)/wの各パラメータと熱伝達率の関係を示すにとどまり,両パラメータの充足と熱伝達率の関係を示すものではない。そして,タイヤ表面の凹凸部によって発生する乱流により,流体の再付着点部分の放熱効果の向上に至るという機序によれば,凹凸部のピッチ(p),高さ(h)及び幅(w)の3者の相関関係によって放熱効果が左右されるというべきであって,本件発明1において特定されたピッチと高さ,ピッチと幅という2つの相関関係のみを充足する凹凸部の放熱効果が,これらを充足しない凹凸部の放熱効果と比較して,向上するといえるものではない。そうすると,p/h又は(p-w)/wの各パラメータと熱伝達率の相関関係を示すグラフ(【図29】【図30】)から,「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p-w)/w≦39.0の関係を満足する」凹凸部の構造が,これを満足しない凹凸部の構造に比して,熱伝達率を向上させるということはできない。
そうすると,本件発明1は,凹凸部の構造を,「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p-w)/w≦39.0」の数値範囲に限定するものの,当該数値範囲に限定する技術的意義は認められないといわざるを得ない。
よって,引用発明に甲2技術を適用した構成における凹凸部の構造について,パラメータp/hを,「10.0≦p/h≦20.0」の数値範囲に特定し,かつ,パラメータ(p-w)/wを,「4.0≦(p-w)/w≦39.0」の数値範囲に特定することは,数値を好適化したものにすぎず,当業者が適宜調整する設計事項というべきである。 」
住友ゴム、ブリジストン
(知財高裁4部高部判事、平成29年12月21日)
(2017.12.28. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-12-28 16:20
| 特許裁判例
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