◆カインズで販売されていた棚が、無印良品の棚に類似するとして差止めが認められた事件(不競法2条1項1号)。知財高裁でも原判決維持。
【不正競争防止法2条1項1号、周知な商品等表示、商品の形態、混同、良品計画、棚、ユニットシェルフ、非デッドコピー(§2①3)、個々の形態がありふれているor形態の組合せ(まとまり)としてありふれている?、差止請求、訴訟、判決文】
◆ 知財高裁 平成29年(ネ)10083
(商品形態該当性 2条1項1号 ~「周知性、需要者」~)
「2 特別顕著性・周知性について
控訴人は,識別力調査の結果(乙29及び乙30)によれば,約98%もの一般消費者が被控訴人商品形態を見ても被控訴人商品であると識別できず,また,控訴人と取引関係にある家具等の生活用品取扱業者5社の担当者10名に対して実施した識別力調査の結果(乙31)によれば,10名中9名もの担当者が被控訴人商品形態を見ても被控訴人商品であると識別できなかったとして,被控訴人商品形態は,一般消費者の間でも,事業者の間でも,出所識別力を有していないなどと主張する。
そこで検討するに,不正競争防止法2条1項1号は,周知性の要件につき,「需要者の間に広く認識されているもの」と規定するところ,上記にいう「需要者」とは,
当該商品等の取引の相手方をいうものと解するのが相当である。
これを前者の識別力調査(乙29及び乙30)についてみると,当該調査の対象者は,控訴人の主張によっても単に二十代から四十代の一般消費者であるというにとどまるところ,控訴人商品及び被控訴人商品が金属製のユニットシェルフの家具であって,一般消費者が卒然と購入に至るような性質の商品でないことを考慮すると,少なくともこれらの商品を含む家具一般について何らかの関心を有する者を,上記にいう需要者と解すべきものである。また,調査における質問内容についても,控訴人商品又は被控訴人商品に関してどの販売店の商品か分かるかを尋ねるなど,具体的な出所の認識を直接の問題とする点で,必ずしも適切なものとはいえない。
そうすると,上記識別力調査は,周知性を否定する証拠として適格ではない。
また,後者の識別力調査(乙31)についてみても,当該調査の対象者は,控訴人自身の取引の相手方の従業員である上,その規模も5社10名にとどまるものであるから,周知性の有無を裏付ける証拠としては,信用性を欠くといわざるを得ない。
したがって,上記識別力調査は,前記引用に係る原判決の結論を左右するものとはいえず,控訴人の主張は,採用することができない。 」
(競争上似ざるを得ない形態)
「 3 商品等表示該当性(競争上似ざるを得ない形態)について
控訴人は,被控訴人商品形態のうち,原判決が特徴的部分であると認定した2本ポール構造,横桟及びクロスバーは,いずれも競争上似ざるを得ない形態であり,商品等表示には該当しないと主張する。
そこで検討するに,控訴人は,2本ポール構造及び横桟が,隣接する棚板をそれぞれ1本の支柱に接合することによって,隣接する棚板同士が干渉しない機能にするために,通常選択される構造であると主張するものの,証拠(甲229ないし甲231)及び弁論の全趣旨によれば,棚板の左辺と右辺の金具の位置をずらして横桟の上面の溝にはめ込む構造や,棚板に埋め込まれたパイプの突出部を棚の両側面に位置する板の穴状の溝部分に差し込む構造等によっても,当該機能を果たすことができるものと認められる。そうすると,2本ポール構造が必ずしも上記機能を果たすために通常選択される構造であると認めることはできない。
また,控訴人は,クロスバー(形態的特徴④)が,棚板の揺れ等を押さえる機能にするために,通常選択される構造であると主張するものの,証拠(甲231)及び弁論の全趣旨によれば,2本の支柱の間に新たな棒材を水平又は斜めに追加する構造等によっても,当該機能を果たすことができるものと認められる。そうすると,
クロスバーが必ずしも上記機能を果たすために通常選択される構造であると認めることはできない。
のみならず,前記引用に係る原判決が説示するとおり,被控訴人商品形態は,被控訴人商品形態①ないし⑥を全て組み合わせた点において独自の特徴が認められるのであって,この点において特別顕著性を獲得したものである。そうすると,各個別の形態が競争上似ざるを得ないものであるという主張は,上記組合せの独自性において特別顕著性を認めた前記引用に係る原判決を正解するものとはいえず,特別顕著性に係る当審の判断を左右するものとはならない。
したがって,控訴人の主張は,特別顕著性に係る原審の判断を正解しないもの,又はその前提を欠くものであって,採用することができない。 」
(権利の濫用?)
「4 権利の濫用について
控訴人は,被控訴人の請求は公正な競争秩序の維持を目的とする不正競争防止法の趣旨に反するものであって,明らかにクリーンハンズ原則に反する請求であり,権利の濫用であると主張する。
そこで検討するに,現行法上,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている(最高裁平成13年(受)第866号,第867号同16年2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁)。
上記各法律の趣旨,目的に鑑みると,不正競争防止法2条にいう不正競争によって利益を侵害された者が他人の意匠権を侵害する事実が認められる場合であっても,当該意匠権の侵害行為は意匠法が規律の対象とするものであるから,当該事実のみによっては,直ちに被控訴人が不正競争によって利益を害された者による不正競争防止法に規定する請求権の行使を制限する理由とはならないと解するのが相当である。
これを本件についてみると,仮に,被控訴人商品が訴外株式会社ヤマグチの意匠権を侵害していたとしても(なお,控訴人は,侵害の有無について,被控訴人商品の形態が要部において上記意匠権と類似している点のみを主張する。),上記のとおり,このような事実のみによっては,直ちに不正競争防止法に規定する請求権の行使を制限する理由とはならないというべきである。かえって,前記引用に係る原判決の認定事実によれば,控訴人商品は,被控訴人商品形態の形態的特徴①ないし⑥を全て模倣するものであって,控訴人商品を販売する行為は,被控訴人商品の出所について混同を明らかに生じさせることからすれば,事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の趣旨,目的に鑑みると,競争秩序を著しく乱すものであって,これを規制する必要性が高いものといえる。
そうすると,被控訴人による差止請求及び廃棄請求は,権利の濫用に当たらないと認めるのが相当である。 」
(知財高裁1部清水判事、平成29年3月29日)
◆地裁 平成28年(ワ)25472号http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/056/087056_hanrei.pdf
(商品形態が2条1項1号で保護されるための規範)
「⑵ 商品において,形態は必ずしも商品の出所を表示する目的で選択されるものではない。もっとも,商品の形態が客観的に明らかに他の同種の商品と識別し得る顕著な特徴を有し,かつ,その形態が特定の事業者により長期間独占的に使用されるなどした結果,需要者においてその形態が特定の事業者の出所を表示するものとして周知されるに至れば,商品の当該形態自体が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)になり得るといえる。 」
(当てはめ)
「⑶ 原告商品形態の特徴について
ア まず,原告商品形態の特徴について検討する。
原告商品は,外観が別紙原告商品目録記載の各図のとおりのものであり,原告商品形態①~⑥を有する。すなわち,原告商品は,組立て式の棚として,側面の帆立(原告商品形態①),棚板の配置(原告商品形態③),背側のクロスバー(原告商品形態④)が特定の形態を有するほか,帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねたものであるという特徴的な形態(原告商品形態②)を有し,また直径の細い棒材からなる帆立の横桟 5 及びクロスバー(原告商品形態⑤)も特定の形態を有するもので,それらを全て組合せ,かつ,全体として,上記の要素のみから構成される骨組み様の外観を有するもの(原告商品形態⑥)である。このような原告商品形態は原告商品全体にわたり,商品を見た際に原告商品形態①~⑥の全てが視覚的に認識されるものであるところ,原告は,原告商品の形態的特徴として原告商品形態①~⑥が組み合わされた原告商品形態を主張するので,以下,上記原告商品形態が他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有するか否かを検討する。
ここで,原告商品及び同種の棚の構成要素として,帆立,棚板,クロスバー,支柱等があるところ,これらの要素について,それぞれ複数の構成があり得て(前記⑴ケ),また,それらの組合せも様々なものがあり,さらに,上記要素以外にどのような要素を付加するかについても選択の余地がある。原告商品は,原告商品と同種の棚を構成する各要素について,上記のとおりそれぞれ内容が特定された形態(原告商品形態①~⑤)が組み合わされ,かつ,これに付加する要素がない(原告商品形態⑥)ものであるから,原告商品形態は多くの選択肢から選択された形態である。そして,原告商品形態を有する原告商品は,帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねたという特徴的な形態に加えクロスバーも特定の形態を有し,細い棒材を構成要素に用いる一方で棚板を平滑なものとし,他の要素を排したことにより骨組み様の外観を有する。 原告商品は,このような形態であることにより特にシンプルですっきりしたという印象を与える外観を有するとの特徴を有するもので,全体的なまとまり感があると評されることもあったものであり(同キ),原告商品全体として,原告商品形態を有することによって需要者に強い印象を与えるものといえる。このことに平成20年頃まで原告商品形態を有する同種の製品があったとは認められないこと(同ク)を併せ考えると,平成16年 頃の時点において,原告商品形態は客観的に明らかに他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有していたと認めることが相当である。
イ 被告は,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態を取り上げ,それらがありふれた形態であり,原告商品が他の同種の商品と識別し得る特徴を有しない旨主張する。
しかし,前記アに述べたところに照らし,原告商品形態が他の同種の商品と識別し得る特徴を有するといえるか否かを検討する際は,原告商品形態①~⑥のうちの個別の各形態がありふれている形態であるか否かではなく,原告商品形態①~⑥の形態を組み合わせた原告商品形態がありふれた形態であるかを検討すべきである。したがって,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態にありふれたものがあることを理由として原告商品形態が商品等表示とならなくなるものではない。
また,被告は,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態について,特有の機能等を得るために不可避的に採用せざるを得ない形態である旨主張する。しかし,上記各個別の形態について,原告商品形態とは異なる構成 を採ることができ(前記⑴ケ),かつ,原告商品形態が上記各個別の形態の組合せからなることに照らせば,原告商品形態が特定の機能等を得るために不可避的に採用せざるを得ない構成であるとの被告の主張は採用することができない。 」
(混同)
「2 争点⑵(原告商品と被告商品の類似性及び混同のおそれの有無)について
⑴ 原告商品形態と被告商品形態の構成は,前記前提事実⑶のとおりである。
これによれば,原告商品形態と被告商品形態は,①側面の帆立が,地面から垂直に伸びた2つの支柱と,その支柱の間に地面と平行に設けられた支柱よりも短い横桟からなり,②帆立の支柱が,棒材を,間隙を備えて2本束ねた形となっており,③帆立の間に横桟より少ない数の平滑な棚板が配置され ていて(棚板の配置されていない横桟が存在する),④X字状に交差するクロスバーが帆立の支柱のうち背側に位置する2つの支柱の間に掛け渡されており,⑤帆立の横桟及びクロスバーが上記支柱と同程度の直径の細い棒材からなり,⑥帆立,クロスバー及び棚板のみで構成された骨組み様の外観(スケルトン様の外観)を有しているという各点で共通する。
他方,上記支柱,横桟及びクロスバーを構成する棒材の直径が,原告商品形態においては6~7mmであるのに対し,被告商品形態においては6mm程度である点で相違する。
上記①~⑥の共通点は,正面から視た際に認識し得る左右の帆立の支柱,棚板及びクロスバーの特徴のみならず,側面又は斜めから見た際に認識し得 る上記支柱等のほか支柱の間の横桟の特徴が同一である点にあり,原告商品及び被告商品の全体にわたる。これに対し,上記の相違点は,棒材の直径及び棚板の厚さが1mm程度異なるにすぎず,商品全体を見た際に直ちに判別し得る相違とはいい難い。そうすると,被告商品形態は原告商品形態とそのほぼ全部において同一であるといえるものである。
⑵ 被告は,被告商品は,原告商品と①全体の質感,棚板の取り付け部品,棚板の質感,寸法が異なる,②販売活動の形態が異なる,③需要者は原告商品と被告商品をそれぞれのブランドにおいて明確に区別していると主張する。
上記①につき,前記前提事実⑶及び証拠(検証の結果〔写真1,2,7,8,15~20〕)によれば,原告商品及び被告商品の色のほか,寸法につき,原告商品1(タイプ1)及び被告商品1を対比すると少なくとも脚部の幅,支柱の高さ,棚板の幅,奥行き及び高さ,クロスバーの長さがいずれも最大で1cm程度異なり,他にも,一部の製品の幅,原告製品3及び被告製品3につき高さがそれぞれ異なると認められる。
しかし,原告商品は,高さ,奥行きや棚板の材質が異なる複数の種類の商品について,いずれもユニットシェルフの基本セット等として宣伝,販売等 された。高さや棚板の材質が異なるが,いずれも原告商品形態を有する複数の商品について,上記のとおり宣伝,販売されて,原告商品形態が原告の出所を表示するものとして周知になったことに照らせば,被告が主張する寸法の違いや色の違いによって,被告商品に接した需要者が被告商品形態について原告の出所を表示するものと直ちに認識しなくなるとはいえない。そして,原告商品形態と被告商品形態の類似性の程度が高くほぼ全部において同一であるといえるものであるところ,それらの形態が,商品全体の外観に関し,かつ,商品を構成する各要素であって,需要者に最も強い印象を与えるものであること,原告商品と被告商品が大きく異なるのが商品全体の幅及び高さであって他の部分の違いが僅かであることからすると,被告商品に接した需要者は被告商品の形態が原告の出所を表示すると認識するといえる。
上記②及び③につき,被告商品形態が,前記のような原告商品形態と高い類似性を有することに照らせば,販売活動の形態やブランドが異なることから需要者が被告商品を原告商品と混同するおそれがないとはいえない。
⑶ 以上によれば,被告商品は,原告商品と混同を生じさせるものであると認めるのが相当である。 」
(東京地裁46部柴田裁判長、平成29年8月31日)
_/_/ 参考 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
◆2条1項3号:個々の部分がありふれているかではなく、全体を見るべきとした裁判例
・平成 23年 (ワ) 36736号(ニンテンドーDSストラップ付タッチペン事件)
「…「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。\そして,商品の形態が,不競法2条1項3号による保護の及ばないありふれた形態であるか否かは,商品を全体として観察して判断すべきであり,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断し,その上で,ありふれたものとされた各形状を組み合わせることが容易かどうかによって判断することは相当ではない。 」。
◆2条1項1号で「形態」が保護された例:
・イッセイミヤケ プリーツ・プリーズ事件(平成7年(ワ)13557号、平成11年6月29日)
・iMac 事件(平成11年 (ヨ) 22125号、平成11年9月20日)
・パネライ事件(平成 15年 (ワ) 29376号、平成16年7月28日)
・ロレックス事件(平成16年(ワ)18090号、平成18年7月26日)
・楽らく針事件(平成18年(ワ)27454号、平成19年12月26日)
・エルメスバーキン事件(平成25年(ワ)31446号、平成26年5月21日)
・TRIPP TRAPP事件(平成26(ネ)10063号、平成27年4月14日)
・プラント樹脂成形品事件(平成27年(ワ)24688号、平成29年6月28日)
・無印良品棚事件(平成28年(ワ)25472号、平成29年8月31日)
(2017.9.11. 弁理士 鈴木学)
(2018.4.11. 更新)